碧井 ゆきの物語

こんにちは。碧井ゆきと申します。ここにはわたしが書いた小説をのせています。

2016-02-08から1日間の記事一覧

果たし状10

後は愛会梨の名前を世に出すだけだ。次の世代につなげるというのはそういうことだ。そうすれば夜唯子に会える。話ができるのだ。 デザイン画は地方の宝飾会社へ持ち込んだり、大手企業が主催する受賞作品は実際に製作されて販売されるコンテストに応募したり…

果たし状9

夜唯子と離れた当時は、愛会梨はジュエリーデザイナーになるつもりだった。最初から宝飾製品を扱う会社に就職できるかはわからなかったが、デザイン画を描きためていた。どんな形ででもジュエリーデザイナーの肩書きを名乗れるようになるつもりだった。だか…

果たし状8

「ほおー」 「わあ」 LEDのライトの光でいちごゼリーはピンク色に輝いた。 「きれいだね」 「うん、きれい」 二人でしゃがみ込んで輝くゼリーを見つめた。 四年で大学を出た夜唯子はもう働いている。先日社長賞をもらった企画の製品が売り出されたと、実にそ…

果たし状7

夜唯子はボウルのゼリーから手を引き抜き、そのままの手でボウルのふちをつかみ、ベランダのほうへ歩いていった。カーテンをがらっと開ける。愛会梨は追いついてベランダへ出る掃き出し窓のかぎをはずし、窓を開けた。 ベランダには雪が積もっていた。夜唯子…

果たし状6

力が入らなくて両肘まで床につく。 「うっひゃっひゃ」 愛会梨は体を起こし、両手を背中の後ろの床につき膝を曲げる。二人で笑い続けた。 レンコンの穴にいちごゼリーを流し込んで冷やし固めたこともある。抜けやすくするためにしばらく室温に置いた。出てき…

果たし状5

手の両脇の風船がぶにゅっと膨み、膨らんで色が薄くなったのがもうたまらない。「ぎゅわっは」 愛会梨は手を離してしゃがみこむ。床に尻を落とし手をついて横向きに倒れ込む。げらげらと笑いが止まらない。 夜唯子は真ん中がだらんとした風船を見つめて呆然…

果たし状4

言うとおりにしないともっと恐ろしいことがことが起きそうだ。愛会梨にまんなかを託して空いた夜唯子の手が愛会梨の腕を越え、長くしなっているほうの中ほどにもっていった。そしてぎゅうっとねじった。 「ぎゃあ」 愛会梨は恐怖で手を離しそうになるが、今…

果たし状3

夜唯子とはいろいろなことをやった。チューブややわらかいポリエチレン製の容器に入ったものを凍らせたり、それに飽きるとゼリーを詰めたりした。凍らせて遊んで一番印象に残っているのはバルーンアート用の長い風船に水を入れたときだ。長い風船のかたい口…

果たし状2

夜唯子とは近くに住んでいた。大学に入って入学してすぐのオリエンテーションで席が隣りだったのがきっかけだった。学内の説明に来た三年生は濃い顔の真面目そうな外見に反して話が軽快で、男子学生はげらげらと声をあげて笑った。 愛会梨は笑い声が上がりそ…

果たし状1

駅のホームに停まった電車から大勢の人が降りる。私もあの中に入るんだな。この春大学院を卒業する愛会梨はほおづえをついて眺める。要らないものはだいぶ処分した。その日が来れば否応なく手元にある物は持っていくことになる。実家に押し付けてもいいが、…