碧井 ゆきの物語

こんにちは。碧井ゆきと申します。ここにはわたしが書いた小説をのせています。

2016-10-20から1日間の記事一覧

出ないための鍵 6

彼女は僕たちの目の前にかぶるように垂れている枝先の向こうの、雨でグレーに見える住宅街をぼうっと見ながら言った。 僕のチノパンは地面からの跳ね返りでずいぶん濡れてしまっていた。 それよりも、薄着の彼女が風邪を引きそうで心配だった。 「小降りにな…

出ないための鍵 5

「あれから、どうですか」 彼女はチワワを抱き直し、うつむいた。 「隣町に映画を観に行きました。映画館で観たのは小学校のとき以来でした」 「ひとりでですか」 「はい」 「ほお」 僕は目を丸くして口もとをゆるめた。 「楽しかったですか」 「ええ。ひと…