碧井 ゆき の物語

こんにちは。碧井ゆきと申します。ここにはわたしが書いた小説をのせています。twitter.com/snowycrow2blue https://note.mu/snowycrow2blue

彩夏夜160000

「どっちでもいいのよ。千奈美なら」

櫂子は大きなグラスに入ったアイスティーをマドラーでぐるぐる回している。

レモンもミルクも入っていない。

「私に何を相談したいの」

どうして話したんだろう。調べられることは調べているのに。

「了解を得たかったの」

怒られたかったのだろうか。なんだろう。

「怒られてもやめないと思う」

櫂子は目だけちらっと上げて私の顔を見る。

「からだ大丈夫なの」

「定期的に検査してる」

「そう」

櫂子は初めてため息を漏らした。

「大は小を兼ねる」

何も言えない。

「いちばん好きなひとに合わせられないの、つらくない?」

櫂子は大きな氷をマドラーでつつく。

承知の上で決めたことだ。

櫂子はアイスティーに刺さっているストローを吸ったが、少しでやめてしまう。のどを通らないようだ。

「消せないものもあるよ」

わかっている。わかっているけれど、鼻の奥がツンとしてくる。目が痛い。

櫂子と目が合う。櫂子は私の代わりのようにはあ、と大きくため息をつく。

私はバッグからポケットティッシュを取り出す。

「先に出てるわ」

櫂子が二人分の飲み物が書かれた伝票をつかむ。

「あ、待って」

涙声で恥ずかしい。

「まだ頼むかも」

櫂子は眉間にしわを寄せる。

仕方ないといった様子で長財布から千円札を取り出し、テーブルに置く。

「外で風に吹かれてるから」

長い髪を揺らして櫂子は店を出て行く。道路をはさんだ向こうにある駐車場の、腰高のフェンスにもたれかけ海を眺め、背中をこちらに見せている。

何も考えられない。ハンカチを取り出す。湿っていくだけだ。

櫂子はこちらを見ずにフェンスから離れ、駐車場から出て行った。

嗚咽がようやく止まり、私はアイスティーを追加した。