碧井 ゆき の物語

こんにちは。碧井ゆきと申します。ここにはわたしが書いた小説をのせています。twitter.com/snowycrow2blue https://note.mu/snowycrow2blue

彩夏夜160513

その日は財布に入っているお金が少なかった。

待ち合わせた駅のそばに口座を持っている銀行のATMコーナーがあった。

ATMが4台並んでいて、小学校の教室くらいの広さだ。

「すみません。ちょっと足らなくて」

櫂子はATMコーナーを指差して武端を見た。

小首を傾げてしまったかもしれない。

「ここで待ってますよ」

と武端は言ったが、折からの強風で砂埃や菓子のパッケージのゴミが舞い上がる。

「いいえ、中で」

なんだか家に上がるよう勧めているようで、気恥ずかしさと後ろめたさで頭と体が反対の反応をしている気がする。

「痛っ」

武端はコンタクトレンズを使っている。

目のしばたかせ方からすると、けっこう大きな砂埃が入ったようだ。

櫂子は、裾を出して着ている武端のシャツを、体に触れないようにそうっと触る。

トークイベントではパーカー姿だったし、空港ではウインドブレーカーを着ていたので、街着のスタイルは新鮮に感じた。

「どうぞ」

巻き上がる砂埃と一緒に自動ドアから入った武端は、出入り口のすぐ近くの壁際にとどまった。