碧井 ゆき の物語

こんにちは。碧井ゆきと申します。ここにはわたしが書いた小説をのせています。twitter.com/snowycrow2blue https://note.mu/snowycrow2blue

彩夏夜160514-03

山場は仕事から帰って来ると和装に着替える。

無論一人でも着付けられるのだが、櫂子は帰宅の挨拶の言葉を聞いて長い廊下のどこかから顔を出し、出迎えて着替えの手伝いをする。

山場がスーツの上衣を脱ぎ、ネクタイをゆるめている間に着物と帯をたんすから出す。

後ろ向きの彼の量の多い白髪交じりのくせ毛から外のにおいがする。

着物を広げ、袖に山場が腕を通しやすいよう襟口の持ちどころを整えると、山場の指先がすうっと袖の中に入り見えなくなる。

一日の疲れの半分以上がこのときになくなる気がする。

もう片方の腕を通すときには、さほど思いは残らない。

襟を合わせ、背中に帯を回して前で結ぶときの山場の胸から発せられている熱を額やほおの肌で感じる。

それは武端と会うようになった今でも変わらない。

共有できる時間が持てているのは心地よく、癒しである。