碧井 ゆきの物語

こんにちは。碧井ゆきと申します。ここにはわたしが書いた小説をのせています。

これから d

今朝はオムレツとウインナーがメインだ。

昨夜の夕食は公数には少なかったかな、と思い、公数の分のオムレツは卵3個分だ。

後に家を出る香子の分と自分の分を一緒につくる。

卵4つを使ってつくり、皿にのせるときに切り分ける。

香子は中のチーズが溶けているのがお気に入りだ。

皿に盛りつけるときは、香子の皿に2.5個分、自分の皿に1.5個分くらいにして分ける。

公数が寝室のある二階から下りてきた。

三日前にあんなことを言っていたが、美咲がつくった食事はしっかり食べる。

「おはよう」

今までと同じように朝の挨拶をする。

公数の寝癖は今朝はいちだんとひどい。

「おはよう」

公数はしわがれ声で言う。

美咲はキッチンに向かい直す。

背中でダイニングの椅子を引く音がする。

「あれ、考えた」

香子が起きてくる時間を考えると、しらばっくれている余裕はない。

「まだよ。そんな急に」

フライパンの中のオムレツはあとほんの数秒で上げるのにいい頃合いだ。

皿に盛って少しの余熱で香子の好みの火の通り加減になるだろう。

しかし、公数と面と向かい合いたくない。

公数は、いただきます、と言って食べ始める。

習慣で言っているのか。

ドアと廊下を隔てている香子には聞こえないと思う。

スプーンでオムレツをすくい取り口に運ぶと、公数の頬がゆるむ。

公数はハムが好きなので、今朝は短冊に切ったハムを入れてあった。

公数は、しまった、というように真顔に戻る。

「計算くらい、できるだろ」

カアッと頭に血がのぼったが、少し火を通し過ぎた香子の分のオムレツを目にしているので、すうっと引いていく。

鎮まりはしないけれど。

怒る声を出すくらいなら黙っているほうがいい。

オムレツを香子の皿に盛る。

起き出してくる時間だが、気配がない。

「あなたがすれば」

自分の分のオムレツをフライパンにのせたまま、香子の皿に自分の皿からプチトマトを1つ移す。

公数は、プチトマトの口の中で割れる瞬間が嫌だと言っていたが、口に含んだ後ヘタをひねって取り、奥歯で噛み潰す。

「急がなくちゃならないの」

余計なことを言った。

なぜ負けを認めるようなことを言ってしまうのだろう。

「ごちそうさまでした」

公数は立ち、皿を流しに置く。

リビングダイニングと廊下を仕切るドアのガラス部分に、香子のピンクのパジャマの柄がぼんやり透けて見えて、ドアが開き、香子が入ってくる。

「おはよう」

うつむき加減なのはいつものことだ。

「おはよう」

「おはよう。遅いな、間に合うのか」

美咲が笑顔で言って得点を上げた挨拶を、公数の言葉の多さが打ち消してしまう。

もっとも、遅いな、は美咲に向けられたものだろう。