これから i
混乱している。
考えたくないことを考えなければいけないからだ。
降りてきたら何か言わなければ。
美咲は椅子を立つ。
お金をかけたくないわけではない、ということは。
美咲は膝から崩れ落ちそうになる。
どうしようもないことを責められても仕方がない。
性生活は夫婦にとって絶対のものなのだろうか。
少なくとも、美咲はそうではないと思ってきたのだ。
築いてきたもの。香子。香子のこれから。
一緒に居た時間と、それを守ること。
美咲にとって、夫婦とはそのようなものを守るチームだった。
公数が上着を羽織って階段を降りてきた。
今、ものずごく恨みのこもった形相になっていると思う。
公数の手がリビングを出るドアのハンドルに伸びる。
「どうして。一年に一度のキスでいいから。出て行くことないじゃない」
それさえしてくれれば、公数が外で何をしてきても構わなかった。
言わないでくれればいい。ただそれだけだ。
公数の動きは一瞬止まったが、ドアを開けて玄関に出て行った。
玄関ドアを開けて外に出て行く音がする。
一人になった部屋は静かだった。温度が下がった気がする。
今、この空間には何があるのだろう。
今までの年月は何だったのだろう。
体を壊したことでお金も失うのか。そんなことが許されていいのか。
美咲には、この二つを分けて考えることができなかった。
*この文は、2016年11月に投稿しました。ブログの掲載順の都合上投稿日時を変えてあります。