出ないための鍵 6
彼女は僕たちの目の前にかぶるように垂れている枝先の向こうの、雨でグレーに見える住宅街をぼうっと見ながら言った。
僕のチノパンは地面からの跳ね返りでずいぶん濡れてしまっていた。
それよりも、薄着の彼女が風邪を引きそうで心配だった。
「小降りになったらすぐに失礼しますね」
こんな状況では、断ったほうが気を遣わせると思った。
「行きましょう」
強い雨の中に彼女は足を踏み出した。
サンダル履きのすねに泥水のしぶきが跳ね上がる。
彼女の家までの道は覚えているが、後をついていった。