碧井 ゆきの物語

こんにちは。碧井ゆきと申します。ここにはわたしが書いた小説をのせています。

出ないための鍵 7

家の前に着き軒下に入ると、僕は彼女の傘を受け取りたたんだ。

彼女は玄関ドアのノブをおもむろに手前に引いた。

ドアは開かなくて、彼女の体がガクンと揺れる。

彼女はチャイムのボタンを押す。

何も反応がない。

 

「こんな雨なのに、タエコさん、出かけたのかしら」

彼女はひとり言を言い、チワワを抱えたまま途方に暮れた顔つきをする。

 

「ぼく、持って来てますよ」

ポケットかららでん細工のはめ込まれた鍵を取り出して、鍵穴に差す。

右に回すと、カチャッといかにも正解のような音がする。

 

鍵を抜いてドアノブを引くと、ドアが開いた。

 

「どうぞ」「どうぞ」

二人同時に家の中へ入るようジェスチャーをした。

おかしくなって、二人で笑った。

チワワを抱っこしている彼女から家に入った。