碧井 ゆきの物語

こんにちは。碧井ゆきと申します。ここにはわたしが書いた小説をのせています。

出ないための鍵 8

玄関のタイル敷きの土間にはバケツが置いてあり、濡れぞうきんがかけられていた。

チワワは彼女にあしを拭いてもらい、玄関の床に下ろされると、廊下の右側のドアの開いた部屋へ小さなあしを動かし入っていった。

 

彼女は同じぞうきんで自分の泥だらけになった足を拭き、

「もう一枚持ってきますから」

と言って廊下の奥に走って行った。

 

ぞうきんを持って戻ってきた彼女は、僕に渡した。

そして、廊下右側のチワワが入っていった部屋へ入っていった。

リビングのようだ。

僕は、濡れたチノパンのひざ下の泥しぶきをぞうきんで払うように拭き、靴をざっと拭いて玄関に上がった。

 

彼女の後をついていくように右側の部屋に入った。

やはりリビングで、細かい柄のカーペットと古い茶だんすが目を引いた。

キッチンを背にして3人掛けのソファと、ひとり掛けのソファがあり、彼女はひとり掛けのソファのほうにひざをそろえてきちんと座っていた。

 

背もたれに寄りかからず体を緊張させているけれど、顔は緊張していなかった。

チワワが、くんくんとにおいを嗅ぎながらリビングを歩き回っているが、気にならないようだ。

 

「どこでも、どうぞ」

どこでもと言われても、3人掛けのソファしか座れるようなところがないので、ソファの真ん中に座った。

 

ソファを濡らさないように浅く腰かけた。

「じきに、乾くと思いますよ」

乾きそうもないが、雨が弱まれば出て行かなければならない。

 

「何か、飲みましょうか」

彼女はぎごちなく立ち上がった。

「いや、お構いなく」

 

僕の返事を聞いても聞かなくても変わらないようだった。

彼女が立つとチワワがついていく。