碧井 ゆきの物語

こんにちは。碧井ゆきと申します。ここにはわたしが書いた小説をのせています。

出ないための鍵 16

気がつくと、僕は彼女の家のソファに横になっていた。

 

「わあ、ごめんなさい」

 

僕はひたいに手を当てて体を起こそうとした。

 

ひたいには熱を取るシートが貼られていて、わきの下とももの間にはタオルを巻いた保冷剤がはさめてあった。

 

ものすごくだるい。

 

体を起こしきる前で動きが止まってしまう。

 

僕の上半身はまたソファに沈みこんでしまった。

 

「今日はもう、休めるんでしょう?」

僕のいるソファの前にひざまずいた格好になっている彼女は、僕の額の熱を取りシートに手を遣る。

 

「ぬるいですね。替えましょうか」

 

彼女はカーペットから立ち上がり、台所の冷蔵庫を開いた。

熱取りシートを取り出そうと冷蔵庫の上の棚に手を伸ばす。

 

すぐに、気が変わったのか冷蔵庫のとびらを閉じた。

台所の引き出しからおしぼりサイズのタオルを取り出して蛇口からの水で濡らして絞り、僕のところに戻ってくる。

 

ひたいに貼りついていた熱取りシートを剥がし、濡れタオルをのせる。

ひんやりして気持ちがいい。

 

「私は、濡れタオルのほうが好きなんですけど、どうしても横を向かれるものですから」

僕も、濡れタオルのほうが安心する。

眠ると横向きになってしまうのは癖だ。

 

「今日は大丈夫なんでしょう?」

彼女は再び尋ねる。

 

エアコンのよく効いた室内の外は、強い日射しで庭の木々の葉が白熱球のように光っている。

蝉が鳴いているのが聞こえる。

 

もう1か所寄りたい所はあったが、この体調では無理だ。

しかし、彼女の問い方は返事に困ってしまった。

 

「今、何時ですか」

ソファに横たわり真上を見たまま目だけ右往左往する。

 

「3時です」

 

まだまだ暑い時間だ。

ぐったりとして目を閉じる。

 

「大丈夫なんですか」

 

「私はひまですから。何もしていませんもの」

 

目をなんとか開けると、彼女はにっこりと微笑んでいる。

 

安心してまぶたが重くなりたれ下がる。

 

「あ、お水飲んでください」

彼女はテーブルに置いてあったペットボトルのふたをはずし、僕のほうに差し出す。

 

体は重くてしょうがないが、肘をついて半分起こし、飲む。

水と言っていたがスポーツドリンクのようだ。

 

6、7回はのどを通っただろうか。

彼女にペットボトルを戻すと、意識が遠のいた。