碧井 ゆきの物語

こんにちは。碧井ゆきと申します。ここにはわたしが書いた小説をのせています。

北風の吹く頃に 1

校長先生はいじめはないと言った。

けれどクラスの少なくとも三分の一は由花がいじめられていると知っている。

恐らく半分以上は知っているだろう。

安子は由花に自分の宿題をやらせておいて、みんなの目の前で破り捨てる。

そして由花のノートを横取りする。

いじめのアンケートをくぐり抜けたのは皆が安子がこわいからだ。

 

安子は、安子にとって面白くない奴の弱みをどこからか握ってくるのだ。

圴一のお父さんは転職を余儀なくされた。

 

由花がいじめられているのを見て見ぬ振りしているのも辛い。

「まじめに嫌な顔をするから止まらないんじゃないのかな」

恭輔が言う。

由花と三分の一のクラスメートは安子を見るとへらへらすることにした。

 

声を張り上げずに力を抜いてへらへらするのだ。

由花が安子にいじめられ始めると三分の一はへらへらする。

由花はその様子を見て安心してへらへらする。

残りの三分の二もへらへらし始める。

たまに安子の由花へのいじめの同調と勘違いする奴がいるが、へらへらしたまましぐさでやんわりと止める。

 

へらへらしたまま恭輔と私は由花の両方から肩を抱く。

安子はあっけにとられている。

鼻歌を歌い出すやつがいる。

皆が鼻歌を歌いだす。

由花と私と恭輔を先頭にして安子を置いてクラスメートは全員教室を出た。

 

クラスメートの三分の一は一度は安子に嫌がらせを受けているのだ。

放課後にドーナツ屋に集まるのにハンバーガー屋と伝えられた女子、プリントを読み上げるよう言われてそのまま読んだら卑猥な言葉の羅列でプリントがすり替えられていたとわかった女子。

男子は何者かに殴り逃げされている。

 

やられた者に共通しているのは彼氏や彼女ができてすぐだったということだ。

安子の嫌がらせを恐れて恋人ができたことをひた隠しにする者もいる。

由花は貧弱で顔もかわいいとは言えないのが安子にはますます面白くないのかもしれない。

 

 

*『北風が吹く頃に』は、2016年1月にTwitterに載せたものです。表現は一部変えてあります。