碧井 ゆきの物語

こんにちは。碧井ゆきと申します。ここにはわたしが書いた小説をのせています。

北風の吹く頃に 3

したいことは由花をいじめることではなかった。

それだけがはっきりした。

一度クラスの数人と授業を抜け出して行った公園に足が向かった。

あのときは恭輔も居た。

公園は丘の上にある。駆け上がるのは難儀だ。

心臓がめいっぱい膨らんだまま拍動して苦しく、膝下がつってがくがくしてくる。

 

それでも脚は止まらない。

林を抜けると芝生の緑が目の前に広がった。大きな滑り台やアスレチック風のネットや砂場でクラスのみんなはめいめい遊んでいた。

男子はブレザーの腕をまくりズボンの裾をたくし上げている。

幼稚園の子たちが遊んでいるみたいだ。

 

「あ、安子。そろそろ戻ろうと思ってたんだ」

滑り台のてっぺんにいる恭輔にまっすぐに顔を見られて言われ、涙で前が見えなくなりそうになる。

恭輔に返事をしたいが、ぎゅっと両のこぶしをにぎり鉄棒のあたりでほかの女子と話している由花の方へ歩いていく。

秋名も一緒とわかり一瞬たじろぐ。

けれどここまで来た理由を果たさないと戻れない。

 

責める眼の中にいくつかの背を押す目線を感じた。

誰のものなのか確かめる余裕はないが勇気をもらって由花の前へ進み出る。

「ごめんね、由花。ごめんね。私がしたかったのは」

秋名が前に立っている子の頭の横から顔をのぞかせる。

「恭輔くんが好きなの」

みんなの顔を見ていられない。

顔を覆うのも申し訳ない。

 

うつむいて膝に手を当てる。

心臓がどきどきしているのを思い出した。

苦しい。

 

「安子ちゃんさ」

由花の声で顔を上げる。

「言う相手が違う」

由花は目に涙の縁をつくって笑っている。

 

「あ、そうだよね」

安子の目からも涙が流れ出ていた。

 

すべり台の方を振り向くと恭輔が両手ですべり台の手すりを握りこちらを見ている。

安子と由花のやり取りが聞こえたかわからないがいじめのことだけではないと感じたのだろう。

安子はすべり台へ向かって歩く。