碧井 ゆきの物語

こんにちは。碧井ゆきと申します。ここにはわたしが書いた小説をのせています。

これから b

「何が悪いのかわからないな」

明人(あきと)はあたたかい紅茶の入った肉厚のマグカップを、持ち手に太い指を三本通して持つ。

三本の指でいっぱいで、小指はのけものにされた格好になっている。

 

「だけどさ、考えてみろよ。リアルな絵をさ」

法於(のりお)は酒が飲めない。

明人は酒は好きで飲める口だが、深酒しても黙ってつき合ってくれる法於に今日は敬意を払いアルコールを頼んでいない。

酒の種類の少ない店でよかった。

 

「そりゃわかるけど、その男できないんだろう」

子どもができるのかできないのかが問題なのかわからないが、明人は直感的に返事をする。

 

「できるかできないかは問題なのか」

法於は頬をふくらませる。

子どもっぽさを出す場面なのだろうかと思うが、ふだんの癖だ。

瑠璃が好きな表情なのだ。

それがないほうがもっといい男だと思うが仕方がない。

 

瑠璃はいい女だ。

明人の思考が束の間止まる。

口だけが勝手に動く。

「人助けみたいなものだろう」

 

法於は明人の目を正面からじっと見る。

こいつ、また俺のことを広くも深くも考えてないと思ってるんだろうな。

まあその通りだ。

 

「明人と話していると、当事者目線を感じられないよ」

相談しに来ておいて何を言っているんだろう。

ゴミ箱みたいだな、俺。

今日はちょっと怒ってみるか。

 

「好きな結論を出せばいいだろう。話が進む段階じゃないな」

ほとんど食べていない。

2000円をテーブルに置いて店を出た。