碧井 ゆきの物語

こんにちは。碧井ゆきと申します。ここにはわたしが書いた小説をのせています。

2016-09-01から1ヶ月間の記事一覧

魂追跡サービス -3-

魂追跡サービスのシェアナンバーワンを誇るソウル・チェイサー社のハートン・ロックウェル取締役の役員室に、キジュ課長とカグラザキ係長が生命保険会社とのタイアッププロジェクトについて進捗を報告しに来ていた。 「キジュ、競合のリサーチデータはどうし…

魂追跡サービス -2-

魂追跡サービスは信仰している宗教によってサービスを受ける期限を決める場合が多い。仏教徒なら49日、キリスト教徒やイスラム教徒は10日から2週間、無宗教の場合は3週間程度とするのがほとんどである。無期限というのはない。いつまでも故人のことばかりで…

魂追跡サービス -1-

「お父さん」 「お父さん死んじゃいやだ」 「あっ、お父さんの魂が地図に表示された」 「じゃあ死んじゃったの」 「まだ家の中にいるよ」 死後の生命エネルギーの移動が解明され、生命エネルギーが肉体から離れることを死と定義するようになった。生命エネル…

これから j

「お待たせしました」 明人は、ビルの外壁に寄り添うようにして立っているOL風の制服姿の女性に声をかける。 「いいえ、待っていませんけど」 女性は訝しげに明人の顔を見る。 「僕のような人を待っていませんでしたか」 「僕のような人って?」 「例えば、…

これから i

混乱している。 考えたくないことを考えなければいけないからだ。 降りてきたら何か言わなければ。 美咲は椅子を立つ。 お金をかけたくないわけではない、ということは。 美咲は膝から崩れ落ちそうになる。 どうしようもないことを責められても仕方がない。 …

これから h

公数は青菜の煮びたしをつついている。 葉の一枚を箸先でつまむと葉がびろっと伸びる。 葉をまとめて出汁につければおいしいものを、伸びてたれ下がったままの状態で口を横から持っていき、食べる。 あまりおいしそうに食べているようには見えない。 香子は…

これから g

ときどき、不安になる。 清星と始まったときは、代わりに過ぎないのだからと、考えが浅かった。 今にして思えばなのだけれど。 知世子さんの体が良くなれば、終わってしまうのだろうか。 治療の甲斐がなく亡くなってしまったら、清星は瑠璃とずっと今までの…

これから f

「ほんとにいいのかよ、それで」 「もう決めちゃったよ」 「なんだかもう、言いたいことは山ほどあるけどな」 紋二はモヒートのグラスを両手で囲むように持つ。 長袖Tシャツの袖口から出ている手の甲は毛深い。 紋二が離婚すると聞いたときは驚いたが、理由…

これから e

「気持ち、変わらないの」 「うん」 電話口の向こうで、瑠璃は気弱な声を出す。 「清星(きよぼし)さんの所に行きたいんじゃなくて」 「わからない。それでもいいと思ってるわ」 「ひとまかせじゃない?」 「決めることのほうがストレスなのよ」 トシ子は旅先…

これから d

今朝はオムレツとウインナーがメインだ。 昨夜の夕食は公数には少なかったかな、と思い、公数の分のオムレツは卵3個分だ。 後に家を出る香子の分と自分の分を一緒につくる。 卵4つを使ってつくり、皿にのせるときに切り分ける。 香子は中のチーズが溶けて…

これから c

「浮気ってなんだろうね」 とトシ子は言う。 「2人とも本気で好きでも、浮気と言うのかな。うわきの響きって、遊びみたいだよね」 頼子はアイスティーをストローで吸い上げながら、軽くうなずく。 否定する気はない。 「1対1のつき合いでまるくおさまらな…