碧井 ゆきの物語

こんにちは。碧井ゆきと申します。ここにはわたしが書いた小説をのせています。

2016-08-01から1ヶ月間の記事一覧

これから b

「何が悪いのかわからないな」 明人(あきと)はあたたかい紅茶の入った肉厚のマグカップを、持ち手に太い指を三本通して持つ。 三本の指でいっぱいで、小指はのけものにされた格好になっている。 「だけどさ、考えてみろよ。リアルな絵をさ」 法於(のりお)は…

これから a

「カズくんがね、別れたいって言うのよ」 「えっ。先週のバーベキューで楽しそうにしてたじゃない。香子(こうこ)ちゃんとも今までどおり仲がよかったし、うちのさみえとも遊んでくれてたよね」 「川遊びが好きだから。誰だっていいのよ」 美咲の言い方には毒…

あなたとコーヒーを (下)

その次の週の同じ曜日の同じ頃も僕は銀行の壁にもたれかかってコーヒーを飲んでいたけれど、安立さんの姿は見なかった。 その三日後、僕はコーヒーショップの外の椅子に腰かけ、ホットコーヒーをテーブルに置いて本を読んでいた。 本当は絵を描いていたいの…

あなたとコーヒーを (上)

いつもの銀行の壁にもたれてコーヒーショップで買ったブラックのコーヒーを飲んでいると、グレーのパナマ帽をかぶった初老の男性が帽子に手を遣りながら僕の前で立ち止まった。 「そちらのコーヒーはどこで買われましたか」 道を聞かれるのかと思っていたけ…