碧井 ゆきの物語

こんにちは。碧井ゆきと申します。ここにはわたしが書いた小説をのせています。

出ないための鍵 13

リビングに、ドライヤーの風の吹き出る音と、彼女の嗚咽、何度もの鼻をかむ音が響く。

 

彼女を見上げていたチワワは、彼女のかたわらでふせをしてじっとする。

 

泣くことが必要なんだな。

 

視界の中に彼女を置いて乾かす。

片方の裾がほとんど乾き、彼女が水気を取ろうとしてくれていた反対側を乾かし始めると、彼女の嗚咽はおさまってきた。

 

彼女に体の正面を向けて、裾を乾かす。

彼女は何度も涙を拭く。

 

パンツの裾は半分くらい乾いた。

 

 

リビングの窓から見える外が入って来たときより明るくなり、雨は小降りになっていた。

「ああ、もう大丈夫ですね」

 

僕は外を見ながら言った。

 

彼女は正座をしたまま外を見た。

 

雨に濡れた庭の緑の揺れはおさまっていた。

 

彼女は、チワワを見て、また外に目を遣った。

 

「ドライヤーは父の寝室にあるんです」

 

彼女の目は見開かれていた。

意を決したように見えた。