碧井 ゆきの物語

こんにちは。碧井ゆきと申します。ここにはわたしが書いた小説をのせています。

北風の吹く頃に 2

物静かで本を読んでいることの多い由花は、休み時間に近くに座る者がいると本を置いて二、三言葉を交わす。

なんだか占い師さんみたいなポジションだ。

由花が辛いと皆辛い。

安子にもそれなりに訳はあるのだろう。

授業が終わる頃には教室に戻ろうと思う。

 

安子はおもしろくない。

みんな次々と彼氏ができる。

いいな、と思っていた男子にも彼女ができていく。

由花が憧れの先輩の薗碁(そのご)とつき合い始めたと聞いたときには頭が沸騰しそうになった。

しかも由花は前は恭輔とつき合っている。

クラスの中では恭輔が一番かっこいいと思っていたのだ。

 

恭輔は今は秋名とつき合っている。

学校にはいらいらするために行っているようなものだ。

由花はいくらつらくあたっても胸を張って登校してくる。

それがますます気に食わない。

どうしたら由花の顔を見なくて済むようになるのだろう。

 

それにしても、みんなが教室を出て行ったのはこたえた。

 

けれどどうしようもないのだ。

どうしたら気が収まるのか安子もわからない。

由花を教室から連れ出すためではあったが、恭輔がすぐそばまで来たのは嬉しかった。

恭輔のブレザーのにおいがまだ鼻に残る。

秋名も由花の肩を抱いていた。

秋名が近くにいたのは残念だった。

 

でも恭輔がそばに来てくれたからそんなことはどうでもよかった。

午後の授業が始まってもみんな戻って来ない。

先生達は安子ひとりでも授業をしていく。

みんなを探しに行こうか。

見つけて謝ろうか。

けれど何を謝ればいいのかわからない。

六時限目の日本史の授業が始まったが教科書が開けない。

 

安子は教室を飛び出した。

上履きを脱ぎローファーに履き替えて外へ駆け出す。

みんなどこだろう。

冷え込んだアスファルトと冷えたローファーの靴底がカンカンと硬い音を立てる。

何を言えるのかわからないが由花に謝ることはできる気がした。