碧井 ゆきの物語

こんにちは。碧井ゆきと申します。ここにはわたしが書いた小説をのせています。

出ないための鍵 2

家に帰り、机の上に鍵を置いて考える。

このまま持っていても仕方がない。

それに、鍵だから捨てるのも気が引ける。

私も困るんです、という言葉が気に掛かる。

やはり何とかして会うしかないようだ。

住宅街には合わなかったが、ぺたんこのサンダルに手ぶらだった格好からして、遠くに出掛けた帰りではないだろう。

もう一度、近くに行ってみることにした。

 

一週間後の夕方、彼女の家に着く手前にある公園で、ブランコに乗っている彼女を見つけた。

この間と同じ服とサンダルだ。

「あのう」

次の言葉が出てこない。

ポケットから鍵を取り出して見せる。

「あ、このあいだの」

なんだか、やつれている。

白を着ているせいか顔が青ざめて見える。

「持っていてください」

僕から目をそらして正面を見る。

「どうしてですか」

僕は隣のブランコに腰かけた。

ブランコを漕ぐ彼女の足が止まる。

「家の人が心配しますよ」

見たところ17、8歳に見えるし、まだ日が残る時間で心配されるとも思えないのだが、住宅街には非現実的な格好と顔色の悪さから、そんな言葉が出た。

「あの人、いつも居るんです」

彼女は、唐突に言った。

「お手伝いさんのことですか」

「ええ、まあ」

会話が途切れる。

「お手伝いさんなら、いつも居ますよね」

「今も、居たんですよ。私が出かけるときも帰るときも全部知っているんです」

「それはそうでしょうね」

彼女は、きっ、と僕をにらみ返す。

「出かけている時間でどこに行っていたか詮索されそうで、遠くに出かけられないんです」

僕は目を丸くする。

「気にしなければいいじゃないですか」

「えっ」

「詮索されている訳ではないんでしょう?」

「…ええ、まあ」

彼女はばつが悪そうになり、ブランコを漕ぎ始める。

合わせて僕も漕ぐ。

彼女のドレスの裾がはためく。

ひざ小僧が出たり隠れたりする。