碧井 ゆきの物語

こんにちは。碧井ゆきと申します。ここにはわたしが書いた小説をのせています。

出ないための鍵 3

「すてきなドレスですね」

「ありがとうございます」

また沈黙に戻る。

「こわいんです、あの家」

「何がですか」

「父が半年に一度帰って来るんですけど、それ以外は息が詰まるんです。ごはんもあの人と食べる気がしないんです」

「無理して一緒に食べなくてもいいですよね」

「ええ、まあ。でも、つくってくれるから悪い気がするんです」

「一緒に食べたいと言われましたか?」

「いいえ」

彼女はまた黙り込む。

「今日はもう帰ったらどうですか。それとも、ファミリーレストランで夕ご飯でも一緒に食べましょうか」

彼女は、とんでもないといった様子でかぶりを振る。

「いいえ、大丈夫です。ありがとうございます」

ブランコを降りた彼女は、公園の出口に向けて走り出す。

「あの、これ」

僕は鍵をかかげる。

「持っていてください」

住宅街じゅうに響く大きな声だった。