出ないための鍵 4
2週間後、僕はまた彼女の家のそばへ出かけた。
前に会ってから1週間で気がかりになったのだけど、仕事でどうしても足を運べなかった。
梅雨が始まっていた。
天気がもてば公園で会えるかもしれないと淡い期待を抱いていたが、公園に着く頃には本降りになってしまった。
彼女は、木の下で傘を差し、こげ茶とクリーム色のチワワを抱いていた。
ドレスは前と同じ形だったが、ユリの花のひとつがベージュがかって見えた。
「ごめんね」
待たせていたようで悪い気がしたのだ。
約束なんてしていないのに。
彼女は困ったような顔をして笑った。
「こんにちは」
長い髪の毛先と、ドレスのすそが雨に濡れていた。
「そのワンちゃんは」
「公園に迷い込んで来ていて。抱き上げたらざあざあ降ってきたんです」
チワワは落ち着いていた。
大きなくりっとした目で僕を見上げていた。
「飼い主さんは」
「わからないんです。近くの人だと思うんですけど」
雨は激しくなった。
木の下にいるのに、彼女と僕の傘に大きな雨だれの音がする。
「少し待てば、やみますね」
何の確信もないのに言った。
雨はそういうものだと考えていた。
「そうですね」
彼女の声には、ほんの少しだけ不安の響きが含まれていた。
チワワの行く末が気になっているのだろう。