碧井 ゆきの物語

こんにちは。碧井ゆきと申します。ここにはわたしが書いた小説をのせています。

片手袋の彼女(十)

私は自分のマフラーを広げ、膝の上に置かれている彼女の両手の下に四分の一ほどを滑り込ませ、長いほうを彼女の両手の上に掛けました。長いほうをもう一度さきほど彼女の両手の下に敷いたマフラーと彼女の膝の上の間にくぐらせ、最後に余った分を彼女の両手の上にさらに掛けました。彼女の両手を私のマフラーが二重に包んだ格好です。

 彼女は少し怯えた目で私を見ました。私は彼女の目を見つめ返し、髪をゆっくりと撫でました。彼女の体に軽く体をもたせかけ、彼女の手に巻いた私のマフラーの中に右手を入れました。彼女の手はいくぶん力が入っていました。私は彼女の重ねてある上のほうの右手に自分の右手をのせ、温かみを伝えるように手のひらに重みをかけました。

 しばらくそのままにしていると、彼女の手から力が抜けました。

 私は右手をずらし、彼女の右の手袋と手首の手の甲の側の間に人差し指と中指を少し入れました。親指も手袋と手首の内側の間に入れようとしたところ、彼女の右手が跳ねるようにわずかに上に動きました。

 彼女はまぶたをふせて息を深く吸うと、頭を私に少しもたせかけました。そしてマフラーの中で左手の手袋を脱ごうとしました。私は右手を彼女の右手首にのせ、待ちました。左の手袋をはずした彼女の左手は、私の右手を探しました。

 私たちはマフラーの中で手を握り合いました。

(碧井ゆき)